広島地方裁判所 昭和40年(行ウ)11号 判決 1976年3月23日
広島市松原町四番一八号
原告
白鍾鉉
右訴訟代理人弁護士
星野民雄
広島市上八丁堀三番一九号
被告
広島東税務署長
臼田三郎
右指定代理人
清水利夫
右同
土肥一之
右同
上山本一興
右当事者間の所得税更正決定取消等請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
一、双方の申立
原告は、「被告が原告に対してなした昭和三五年度分及び昭和三六年度分の各所得税更正決定はいずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。
二、原告の請求原因
(一) 原告が、被告に対し昭和三五年度分、昭和三六年度分の所得税につき、左記のとおり確定申告したところ、被告は、原告に対し昭和三九年四月三〇日左記のとおり更正決定(以下本件各更正決定をいう)をした。
<省略>
<省略>
(二) 原告は、広島国税局長に対し被告のなした右各更正決定について昭和三九年五月七日審査請求をしたが、昭和四〇年六月五日原告の請求を棄却する旨の裁決がなされた。
(三) しかしながら、被告のなした本件各更正決定は次のとおり何ら実質的な調査、審理を経たものではないから違法である。
(1) 被告は、昭和三五年度分及び昭和三六年度分の更正決定において原告が訴外星見元、同松岡徹より借入れた金員、原告の従業員である訴外津島正義が同人の実兄の残務整理上の収入金を原告の預金口座に預金していたもの、パチンコ営業を営む訴外有馬敏雄が景品購入資金に充てるため同人の売上金より原告の預金口座に寄託していた金員、原告が加入していた頼母子講の落札金、掛金、会場費、原告の預金口座から支払った営業上の支払金(以下営業よりの振替金という)、中国タクシーからの借入金、商工会からの集金、預金利子、預金解約金をいずれも原告の収入金と認定した違法がある。
(2) 原告は、昭和三五年度において、事業税四六、八〇〇円中国タクシーに対する利子割引料九九、〇〇〇円、支払手数料二一一、〇〇〇円(内三〇、〇〇〇円は馬場照男弁護士に対する訴訟費の科目替えであり、残金パチンコ景品の換金業者に対する手数料(換金手数料)である)を支出し、昭和三六年度において換金手数料二二六、〇〇〇円を支出したのにかかわらず、被告はこれらを必要経費と認定していない。
(四) よって、被告が原告に対してなした本件各更正決定の取消を求める。
三、被告の答弁
請求原因(一)、(二)の事実は認める。同(三)の事実は争う。
四、被告の主張
(一) 原告の昭和三五年度分及び昭和三六年度分の営業所得、譲渡所得は、別表一ないし四の「被告主張の金額」欄記載のとおりであり、各年度分の所得税額、重加算税額等の算出根拠は別表五、六記載のとおりである。
(なお、別表一に記載の昭和三五年度分の営業所得及び別表三に記載の昭和三六年度分の営業所得と別表五、六に記載の各年度分の営業所得とは金額が相違するが、差額が僅少なため更正しなかったものである。)
(二) 原告の収入金額の算出根拠について
原告は、パチンコ遊戯場の共同経営者(営業に対する持分は原告が一〇分の五、訴外白又基が一〇分の三、訴外孫正照が一〇分の二)で、それによる収入金の一部を、昭和三五年度分については福徳相互銀行広島支店の渡部正彦及び津島正義名義の普通預金口座(以下、渡部口座、津島口座という)に、昭和三六年度分については渡部口座及び住友銀行広島駅前支店の荒木武名義の当座預金口座(以下、荒木口座という)に、それぞれ預金していたが、これらの預金についてはパチンコ遊戯場の売上げがすべて現金によるものであることに照らし、右各口座の入金額のうち、他の預金よりの預け替えによるもの、他よりの借入れによるもの、小切手によるもの(別表七、九、一〇の摘要欄の当店券、他の店券がこれに当る)原告に関係のある預金の当日並びにその前日(前々日)の入出金状況、原告記帳の売上げ金額と右預金の入金額の状況等を総合判断して売上金と認められない入金額の極端に多いもの(二五万円以上のもの)、または少ないもの、端数のないものは収入金でないものと認め、その余の入金額は原告の収入金と認定し、その収入金を原告の記帳している収入金に加算することによって原告の収入金額を算出したものである。
右各預金について原告の収入金と認定した明細は別表七ないし一〇のとおりである。
(三) 必要経費の算出根拠について
(1) 昭和三五年度分所得税関係
1 公租公課について
被告は、原告が営業帳簿に記載している公租公課金額をそのまま認めたものである。
2 利子割引料について
原告が営業帳簿に記載している一、四〇六、七三五円のうち、中国タクシーに支払ったと称する九九、〇〇〇円についてはその事実が認められないから否認したものである。
3 支払手数料(換金手数料)について
原告は、営業帳簿に右手数料の支払先を記載しておらず、被告の求めによってもその支払先を明らかにし得なかったため、否認したものである。
(2) 昭和三六年度分所得税関係
支払手数料(換金手数料)について
前記(1)の3と同様である。
(四) かりに被告がなした昭和三六年度分の所得税更正決定が原告の収入金以外のものを収入金と認定していたとしても、原告には、原処分認定の外に、昭和三六年度分において東邦相互銀行広島支店に対する白川輝夫名義の当座預金口座(以下白川口座という)に四、三一四、四五九円の収入脱漏金があるから原処分が認定を誤った金額の二分の一(原告のパチンコ営業に対する持分相当分)が、右収入脱漏金の範囲内であれば、結局において原処分は正当である。
五、被告の主張に対する原告の答弁
(一) 原告の所得に関し被告の主張する額に対する認否及び原告主張額は別表一ないし四記載のとおりである。別表五、六のうち被告主張の所得控除額は認めるが、その余は争う。
(二) 原告が、被告主張名義の各預金口座を利用していたことは認める。収入金と認定されたものに対する認否及び反論は別表七ないし九記載のとおりである。別表一〇についての被告主張事実は認める。
(三) 必要経費に関する被告の主張は争う。
六、証拠関係
原告は、甲第一号証の一ないし七、第二号証の一ないし三、第三号証の一、二、第四ないし第六号証、第七号証の一、二、第八号証の一ないし四、第九ないし第一二号証、第一三号証の一、二、第一四号証の一ないし五を提出し、証人星見元、同津島正義、同岩村勇、同達川泰男、同徐万述、同豊原秀明、同松下隆博、同吉田年男、同和田具子の各証言、原告の本人尋問の結果を援用し、乙第二、第三号証の各一、第四、第五号証の各一、二、第九号証の成立は認め、その余の乙号各証の成立は不知と述べた。
被告は、乙第一号証の一ないし七、第二号証の一ないし五、第三、第四号証の各一、二、第五号証の一ないし三、第六ないし第九号証を提出し、証人折居初義、同成末俊之の各証言を援用し、甲第一号証の一ないし七、第二号証の一ないし三、第四ないし第六号証、第八号証の一ないし四、第九ないし第一一号証の成立は認め(但し、甲第四、第五号証の各摘要欄記載部分第六号証の摘要欄記載部分、昭和三六年一月二三日の預入金額部分、同年八月一九日の引出金額部分、第九ないし第一一号証の各出金欄中( )内の記載部分及びその余の欄の記載部分の成立はいずれも不知)、その余の甲号各証の成立は不知と述べた。
理由
一、請求原因(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。
二、そこで、以下被告がなした本件各更正決定につき、原告が主張する違法事由の有無について検討する。
(一) 収入金関係について
証人折居初義の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第一号証の一ないし三、証人成末俊之の証言、原告本人の供述及び弁論の全趣旨によると、昭和二五、六年度当時原告は白又基、孫正照と共同して広島市松原町六一九においてパチンコ店「セントラル会館」を経営し、同会館の営業上の所得に関する原告の取得分は二分の一であったこと、当時青色申告の承認を受けていた原告がパチンコ営業の売上げを記載した元帳に基づき被告に対し所得税の申告をしたところ、被告の調査により原告が申告した収入金以外に原告の収入金とみられる津島口座、渡部口座、荒木口座、白川口座の各預金が発見されたこと、そのため調査に当った税務職員折居初義等が、原告本人に面接するほか、関係銀行に照会したところ、福徳相互銀行広島支店に対する原告の当座預金口座から直ちに津島口座への入金替えがあったり、津島口座の解約金が、そのまま渡部口座に入金されており、また荒木口座で小切手振出のために使用された印鑑が原告のものであったこと、原告に支払われた金額が前記各口座に入金されていたこと等の事情が判明したこと、そこで被告は、右各口座が原告の口座であると認め、他方原告にはパチンコ営業によるほかは現金収入がないことから、白川口座を除く口座の預金について、預金利子、小切手による入金、他の口座からの預け替え、他からの借入金と認められるもの、預け入れ金額のうち、パチンコ営業による日々の売上げとは認められない、著しく多額または少額な入金及び端数のない入金を除き、別表七ないし一〇の「収入金と認められるもの」欄記載の金額を原告の元帳に記載されていない収入金と認定したことが認められ、右認定に反する証拠はない。
ところで原告が、渡部口座、津島口座、荒木口座を利用していたことはその自認するところであるから、右に認定したとおり原告の現金収入がパチンコ営業による収入のほか存しないことに照らせば、被告が、右各口座の預金につき、収入金と認められない合理的な理由があるものを除いた金額を原告の収入金と認めたことは首肯することができるから、右各口座の預金につき被告が収入金として認定したものの中には原告の収入金以外のものが存するとの原告の主張が認められない限り被告のなした収入金の算定は正当であるということができる。
よって以下原告の主張の当否について検討する。
(1) 有馬敏雄からの一時寄託金について
(イ) 証人岩村勇、原告本人は、有馬敏雄は昭和三五年頃より広島市所在のパチンコ店「東京ホール」で営業を開始したが、広島市に知人が少なく、同店の営業基盤も弱かったため、原告より景品の仕入れ等資金面の援助を受けることとし、そのため原告が荒木口座を利用して有馬が使用する景品の仕入れ金を支出し、その支払金を後に有馬が補完するようにしたこと、その具体的方法は、有馬が景品の仕入れを行なう際に原告が仕入れ額に見合う額の小切手を振出し、右小切手が支払のため呈示されるまで二日程度要することから、その間に有馬が小切手金額と同額の現金を原告に持参し、原告はこれをそのまま、または他の金と一緒に荒木口座に入金し、その預金の中から小切手を決済していた旨供述ないし証言し、これに沿うものとして証人松下隆博の証言、甲第三号証の二、第六号証、第七号証の二が存在する。
(ロ) しかし、他方成立に争いのない乙第九号証、証人成末俊之の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第二号証の二、第六、第七号証によると、有馬は昭和三六年二月三日にパチンコ店「東京ホール」の経営者則代久喜太から営業に関する一切の権利の譲渡を受け、同年三月一三日より同店での営業を開始したことが認められるから、昭和三六年三月一日以前より原告が有馬に対しパチンコ営業の資金を援助していた旨の前記岩村証言、原告本人の供述及びこれに沿う前記各証拠はにわかに信用できないところである。
のみならず、原告の供述、岩村証言が真実であるとすれば、原告主張の寄託金については、寄託日に近接する日に荒木口座から寄託金に見合う小切手による決済がなされていることになるが、証人折居初義の証言により荒木口座の台帳を写したものと認められる前掲乙第一号証の三によって認められる荒木口座の入、出金状況によると、原告振出の小切手の額面と符合する現金の入金はなく、原告主張のように有馬が原告振出の小切手金と同額の現金を原告に持参し、原告がこれをそのまゝ、或いは他の金と一緒に入金した形跡はうかがえないから、この事実からしても原告の供述及び岩村証言はその信用性につき疑問があるといわざるを得ない。
また甲第三号証の二は、原告本人の供述により真正に成立したことが認められるが、その記載によれば有馬から原告に対する支払いまたは受入れが存するにもかかわらず、前掲乙第一号証の三によればその事実が存しないことが認められるから甲第三号証の二の記載内容もにわかに措信し難い。
なお証人松下隆博の証言により真正に成立したものと認められる甲第四、第五号証(いずれも摘要欄記載部分の外は成立に争いがない)、第六号証(摘要欄記載部分、昭和三六年一月二三日の預入金額部分、同年八月一九日の引出金額部分以外の部分の成立については争いがない)、第七号証の一、二は、同証人の証言によれば、いずれも証人和田具子の証言によって真正に成立したものと認める甲第九ないし第一一号証(但しいずれも出入金欄中各( )内の記載部分及びその余の欄の記載部分を除いては成立に争いがない)、第一二号証及び証人和田具子の証言により原告の元帳であることが認められる甲第一号証の一ないし七、第二号証の一ないし三(いずれも成立に争いがない)を基礎にし、理解の便宜のため新たに作成されたことが認められるし、同証人の証言もこれらの書証に基づくものであるから、これらの書証の記載及び証言の信用性は結局甲第一号証の一ないし七、第二号証の一ないし三、第九ないし第一二号証の信用性に帰着することとなるから、以下証拠判断に際しては右各書証の信用性を問題とすることとし、甲第四ないし第六号証、第七号証の一、二、松下証言については、説示を省略することとする。
(2) 星見元からの借入金について
前掲甲第九ないし第一一号証、証人和田具子、同星見元の各証言、原告本人の供述中には星見元よりの借入金が存する旨の原告主張に沿う部分がある。
しかし他方前掲乙第七号証、証人成末俊之の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第二号証の四によれば、原告は、審査庁の審査段階においては、本訴で原告が昭和三五年度分の星見元からの借入金として主張する金員について、これと同一額の金員を有馬敏雄が自己資金として荒木口座に預け入れたものである旨主張していたこと、また原告が本訴において昭和三六年度分の星見元からの借入金と主張する金額と審査庁へ申立てた金額とは符合せず、その預け入れ日時も著しく相違していることが認められるところ、このように原告が審査請求段階と本訴においてその主張を違えるに至ったことについて合理的な根拠が存することはこれを認めるに足りる証拠はなく、そうすると原告の主張に沿う前掲各証拠はにわかに信用し難いところである。
しかし他に原告主張の事実を認めるに足る証拠はない。
(3) 津島正義の一時寄託金について
原告は、津島正義からの一時寄託金を津島、渡部、荒木の各口座へ預け入れた旨主張するが、原告本人は、自ら津島からの借入金はすべて津島口座へ預金した旨供述しており、その主張と食違うばかりでなく、原告主張に沿う前掲甲第一〇号証、証人津島正義の証言は原告の本訴における主張額と審査庁に対する申立額とが齟齬している事実(この事実は前掲乙第二号証の二、証人成末俊之の証言及びこれによって真正に成立したものと認められる乙第二号証の五によって認定できる)、津島正義が原告に雇傭されていた者であること(この事実は証人津島正義の証言によって認められる)及び前記原告本人の供述等に照らし、にわかに信用できないものであり、他に原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。
(4) 松岡徹からの借入金について
前掲中第九号証には原告主張に沿う部分があるか、他方原告本人は、松岡徹からは一〇〇万円を一回だけ借受けた旨供述し、松岡からの借入金は一〇万円二口、五万円二口であるとの原告の主張と明らかに食違っておるのであって、この事実よりするも甲第九号証を直ちに信用することはできないし、他に原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。
(5) 講関係について
証人豊原秀明の証言及びこれにより真正に成立したものと認められる乙第五号証の三、証人達川泰男、同徐万述の各証言によれば、原告は、パチンコ営業の資金を捻出するため、昭和三五年、六年頃在日朝鮮人で行なっている二十日講(掛金一口一〇万円、講員一三、四人)、明月講(掛金一口三万円、講員一三、四人)などの講に加入していたことが認められるが、それ以上に原告主張額が講の掛金、落札金、講会場費であることについては、これに沿う前掲甲第九号証、原告本人の供述は、講会場費を原告が立替支払ったことはない事実(この事実は証人徐万述の証言によって認められる)と、前記認定した講の掛金額及び講員数によれば講の掛金、落札金が果たして原告主張額であるか否かにつき合理的な根拠があるとは解し難いことに照らし、にわかに信用できないものであり、他に原告主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
(6) 営業よりの振替金について
原告の主張は明確を欠くが、原告主張の趣旨は正規の帳簿に記載された営業収益金からの振替で、帳簿に記載されない収入金ではないとの趣旨と解される。ところが、その点については前掲甲第九号証によってもこれを認めるに十分でなく、他に右事実を認めるに足る的確な証拠はない。
(7) 普通預金解約金、同利子について
前掲甲第一号証の四、五、第一〇号証、乙第一号証の二によれば、津島口座には昭和三五年一月二四日に五、〇〇四円の入金があること、原告の元帳には同日付で受取利息として四、〇五四円が貸方欄に、普通預金として九五〇円が差引残高欄に記載されていることが認められるが、原告主張のように五、〇〇四円のうち九五〇円が解約金であることについては、原告の元帳に右の記載があるので、原告主張事実を認めるに足りる証拠はなく、また、残四、〇五四円が普通預金利子であるとの原告の主張については、前記元帳(甲第一号証の四、五)の記載はこれに沿うかのようであるが、他方前掲乙第一号証の二によれば、津島口座の最初の入金は、昭和三五年一月一四日になされた一三一、九七六円であるところ、同口座にはそれ以後同月一九日に七〇、〇〇〇円、同月二〇日に六〇、〇〇〇円の出金があり、入金は二一日に至って八、一一三円なされたにとどまるのであって、この事実よりすれば昭和三五年一月二一日の時点において普通預金利子として原告主張の金額が存するとは到底考えられないから、前記元帳(甲第一号証の四、五)の記載は信用できないものと言う外ない。
しかして他に原告主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
(8) 商工会からの集金について
前掲甲第九号証、乙第一号証の三によれば、荒木口座に昭和三六年一〇月三日に一六四、〇三〇円の入金があることが認められるが、原告主張のように右金員のうち八、五〇〇円が商工会からの集金分であることを認めるに足りる的確な証拠はない。
(9) 中国タクシーよりの借入金について
前掲甲第九号証には、八月一六日の欄に「中国60,000」の記載があり、証人達川泰男は、同人が株式会社中国タクシーの代表取締役である旨、及び同人が原告主張の頃原告に対し個人として講の掛金六万円を貸したように思う旨証言しているが、この証言は内容が曖昧であってたやすく措信することができず、また右甲第九号証の記載から直ちに原告主張事実を認定することは困難であり、他に原告主張事実を認めるに足る的確な証拠はない。
以上のとおり原告の主張事実はこれを認めることができないから、被告がなした収入金の算定は正当であるというべきである。
(二) 必要経費について
(1) 公租公課(昭和三五年度分事業税四六、八〇〇円)について
前掲甲第一号証の二によると、原告の元帳には昭和三五年八月三一日二三、四〇〇円、同年一一月一日に一四、七〇〇円、同年一二月二七日に六、四二〇円を、いずれも仮払金勘定として事業税支出のため計上している旨の記載があるが、右金額が被告が公租公課として認定した五三四、九七九円以外のものであることを認めるに足りる的確な証拠はない。
かえって、証人折居初義の証言によると、被告は、原告が元帳に記載してある公租公課はそのまま認め、昭和三五年度分の公租公課を五三四、九七九円と認定したこと、原告は審査請求の段階まで被告が認定した以外に事業税として四六、八〇〇円が存する旨の主張をしていなかったことが認められるから被告は、原告主張の事業税四六、八〇〇円を含めて原告の昭和三五年度の公租公課額を五三四、九七九円と認定したものと認めるのが相当である。
(2) 利子割引料(昭和三五年度分九九、〇〇〇円)について
前掲甲第一号証の六には、原告主張に沿うかの如き、昭和三五年四月一四日の摘要欄に「中国」、借方欄に「九九〇〇〇」なる記載があるが、証人折居初義の証言によれば中国タクシーの帳簿には右九九、〇〇〇円の受入れの記載がなく、中国タクシーの会計担当職員も原告から利子割引料として九九、〇〇〇円を受領したことはない旨供述していることが認められるから、これらの事実及び前掲甲第一号証の六の右記載は、他の記載がすべて年月日順になされているのにかかわらず、右記載部分のみが日付の順序を違えていることに照らすと、にわかに信用できないものであり、他に原告主張事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
(3) 支払手数料(換金手数料等。昭和三五年度分二一一、〇〇〇円、昭和三六年度分二二六、〇〇〇円)について
前掲甲第一号証の七には、原告が昭和三五年度に手数料名下に二一一、〇〇〇円を、内三〇、〇〇〇円は訴訟費として残額については細目を明示することなく支出した旨の記載があり、前掲甲第二号証の三には、原告が昭和三六年度に手数料名下に合計二二六、〇〇〇円(味日本と記載あるものの集計額)を支出した旨の記載がある。
原告は、これにつき、訴訟費三〇、〇〇〇円は、馬場照男弁護士に対する支払を科目振替えしたものである旨主張するが、甲第一号証の七の記載からしても、原告の主張を直ちに肯定し得るものとはいい難く、他にこれを裏付けるに足る証拠については原告の何ら提出しないところである。
また原告は、残余は換金手数料である旨主張するが、前掲甲第一号証の七、第二号証の三の各記載が換金手数料として支出されたものか否かについては、証人折居初義の証言によれば、原告、調査にあたった広島国税局職員折居初義に対し、右各書証記載の金員の使途についてパチンコの景品を現金に換える事務を行なう藤原某に手数料として支払ったものであると主張するのみで、右藤原某の名前、住所及び換金場所を明らかにしなかったことが認められるから、甲第一号証の七、第二号証の各記載をもってこれが換金手数料であると軽々に断定することはできず、他に原告主張事実を認めるに足る的確な証拠はない。
三、結論
以上の説示によると、被告がなした原告の収入金、必要経費の各認定は適法なものということができるから、これらの認定と別表一ないし四のうち、当事者間に争いのない昭和三五、六年度分営業所得算出根拠となる原価、必要経費、右各年度分譲渡所得ならびに所得控除額を基礎として計算すると、原告が昭和三五、六年度に納付すべき所得税額等は別表一一、一二記載のとおりとなるから、広島国税局長の審査決定によって維持された限度においては、被告主張のように白川口座に原告の収入脱漏金があるか否かを判断するまでもなく、被告が昭和三五年四月三〇日になした本件各更正決定には違法がなく、適法であるということができる。
よって原告の本訴請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 森川憲明 裁判官 下江一成 裁判官 山口幸雄)
別表一
昭和三五年分営業所得の明細
<省略>
<省略>
別表二
昭和三五年分譲渡所得の明細
<省略>
別表三
昭和三六年分営業所得の明細
<省略>
<省略>
<省略>
別表四
昭和三六年分譲渡所得の明細
<省略>
<省略>
別表五
被告主張の昭和三五年分所得税額等の算出根拠
<省略>
<省略>
別表六
被告主張の昭和三六年分所得税額等の算出根拠
<省略>
別表七
渡部正彦名義普通預金(福徳相互銀行広島支店)
<省略>
別表八
津島正義名義普通預金(福徳相互銀行広島支店)
<省略>
<省略>
別表九
荒木武名義当座預金(住友銀行駅前支店)
<省略>
別表一〇
渡部正彦普通預金(福徳相互銀行広島支店)
<省略>
<省略>
<省略>
別表一一
昭和三五年分所得税等の計算
<省略>
<省略>
別表一二 昭和三六年度分所得税等の計算
<省略>
別表に関する註
1. 別表一ないし四、七ないし九の「原告の認否」欄中、○印は認める、×印は否認するの意である。
2. 別表七ないし九の「原告の主張、内訳」欄のうち「有馬」は、有馬敏雄より一時寄託金、「津島」は、津島正義よりの一時寄託金、「星見」は星見元よりの借入金、「松岡」は松岡徹よりの借入金、「中国」は中国タクシーよりの借入金、「講」は講の掛金、落札金、会場費、「解約金」は、普通預金の解約金、「利子」は、普通預金の利子、「営業」は営業収益からの振替金、「商工会」は商工会からの集金のそれぞれ略である。